28.9.12

大阪中央郵便局を巡る裁判について(3)


■大阪中央郵便局は重要文化財の指定に値するか

何度も繰り返しますが、原告らは国に対して、大阪中郵を重要文化財に指定することを求めています。従って、大阪中郵が重文指定に値するかどうかが、当然大きな争点となってきます。実際、原告の訴状や準備書面は大量の論拠を示して、その紙幅の多くを大阪中郵の価値について、すなわち日本の近代建築史において、最も重要な建築のひとつであることを示すことに費やしています。
しかし、裁判ではこの点は争点となっていません。なぜなら、被告である国が全く反論してこないからです。

平成6年に文化庁内の文化財保護審議会にて了承された、重要文化財の指定に関する方針を定めた資料があります。そこには近代の建造物の指定に関して下記の基準を定め、いずれかひとつに該当することを指定の方針としています。

a. 近代化遺産(建造物等)の総合調査の結果、重要性が認められたもの
b. 近代和風建築総合調査の結果、重要性が認められたもの
c. 建築学会・土木学会等の主要な学会で価値が認められているもの
d.地方公共団体が独自に調査、保存、活用等の措置をとった結果、新たに価値が判明したもの

大阪中郵は、a.c. の2つに該当します。a. については、「大阪府近代化遺産(建造物等)総合調査報告書(2007)」で、「戦前のモダニズム建築の最高峰として評価される建築である」と書かれています。c. については、これまで日本建築学会が4度に渡って、公式に保存要望書を出しています。
大阪中郵が重文に値する価値を有することは、文化庁自ら定めたこの基準からいっても、明らかなのです。
国側は、大阪中郵の指定に関しては、これまで一度も文化審議会に諮問されたことがない事実をもって、原告団の主張に対する唯一の反論としています。しかしこれは言い換えれば、非常に高い価値が明らかである大阪中郵を一度も諮問に出さなかった、文化財行政の怠慢、文部科学大臣の裁量違反を、自ら示す結果となっています。

※次回からは、裁判の最新の状況についてレポートします。

27.9.12

鳩山邦夫衆議院議員の国会質問書

国が重文指定の運用上、所有者の同意を過度に重視していることの証左として、鳩山邦夫議員が国会に提出した「文化財を保存し後世に伝える必要性に関する質問主意書」と、野田佳彦内閣総理大臣名の答弁書を下記にリンクします。
一覧の395をご覧下さい。

http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm

この答弁書の3において、「所有者の財産権を尊重するとともに文化財保護の実効性を担保する観点から、所有者の同意を得て手続きを進める実務上の取扱いとしている。」と書かれています。
ここで「文化財保護の実効性を担保する」と書かれているのは、他の資料と照らし合わせると、「指定しやすいものから指定していく」ことを意味しています。つまり国は、文化財の重要度よりも、指定の容易さの方を優先して、文化財保護法を運用していることになります。

また回答の4において、大阪中郵を所有する郵便局(株)の持ち株会社である日本郵政(株)の株式は、政府がその全てを保有していることを明記する一方、5及び6においては、民間企業のことについて政府は関知する立場にない旨の記述をしています。これは一般的な感覚からすれば奇異に感じます。100%株式を保有しているからといって、その企業の経営に口出ししなければならない義務があるわけではないでしょうが、企業の経営を大きく左右する大規模開発について、また企業が所有する重要な文化財の扱いについて、100%の株主である政府が、第3者的な立場であるかのような振る舞いするのは問題です。大規模開発が失敗に終わった場合、また重要な文化財が失われた場合、損なわれるのは国の財政であり、国の文化であるのですから。

大阪中央郵便局を巡る裁判について(2)


前回に続けて、裁判上の争点の二つ目について書きます。

○文化財保護法の解釈の問題
重要文化財を規定する法律は文化財保護法です。従って、裁判ではこの法律が主たる論点となります。文化財保護法の目的は、第一条に下記の通り述べられています。

「この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする。」

また、この目的を達成するために、第三条で政府及び地方公共団体に対して、下記の通り任務を与えています。

「政府及び地方公共団体は、文化財がわが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、且つ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもつてこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない。」

そして第二十七条で、重要文化財の指定を定めています。

「文部科学大臣は、有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる。」

私たちは、大阪中郵を重要文化財に指定することを求める義務付け裁判を起こしたわけですが、被告である国側は、そのような義務はないと主張します。簡単にいうと、重文指定に関して、重要文化財に当たるか否か、そして当たる場合に指定するか否かについては、いずれも文化財行政に精通している文部科学大臣の広範な裁量に委ねるものと主張しています。
しかし重要文化財指定は、一般には「確認行為」と理解されています。確認行為とは、例えば建築確認申請が提出された場合、行政庁や民間の確認検査機関は、一定の要件を充たしていれば確認を下ろさなければならないということです。そこに裁量の余地はありません。国側は、指定基準が存在しないことを裁量の根拠のひとつに挙げていますが、「国宝及び重要文化財指定基準(昭和26年)」等の資料が実際には存在しています。
そもそも、文化財保護法の目的に鑑みれば、指定基準があり、ある建築物がその基準を明らかに充たすならば、速やかに指定に向けた取り組みを実行することが国には求められてしかるべきです。時の文部科学大臣の判断によって、文化財が残ったり残らなかったりするというのは、日本の文化にとって明らかに問題です。

とはいえ、実際の運用においては、ある程度の幅を持たせることは必要でしょう。基準を満たせば全て指定するというのは、現実的には様々な意味で困難です。そこで、運用上の問題というものがでてきます。
以下は特に裁判で争われているわけではありませんが、非常に重要な問題なので、この場で説明したいと思います。それは「所有者その他の関係者の同意(以下、所有者の同意)」の問題です。
文化財保護法には、第三条2項に下記の一文があります。

「政府及び地方公共団体は、この法律の執行に当って関係者の所有権その他の財産権を尊重しなければならない。」

重文指定に際して、所有者の権利が尊重されるべきであることは言うまでもありません。私たちも、所有者の権利が無視されてよいなどとは考えていません。しかし、国は所有者の権利を過度に重視し、文化財保護法の目的から外れた運用をしていると言わざるを得ません。
国は、重文指定の手続きを進める前提として、所有者の同意を条件としています。重文の基準を明らかに満たしていたとしても、所有者の同意がなければ、そこから前へは進まないのです。そのことは、いくつかの資料から明らかです。
本来であれば、重文の基準を充たす場合は、指定に向けた具体的な手続きを進め、その過程のなかで、所有者の権利を尊重していく、つまりどうすれば指定が可能か、国と所有者の間で協議していくべきでしょう。その結果、一部保存といった選択肢や、活用のための改修が認められるケースもあるでしょう。場合によっては、指定を諦めざるを得ないこともでてくるでしょう。しかし、それは指定に向けた協議を真摯に進めた結果であるべきです。国はそのような手続きを避け、あらかじめ所有者の同意を得なければ、何もしないというのです。これは明らかに文化財保護法の目的と任務に反しています。
そもそも法律上、所有者の同意は指定の要件にはなっていないのです。(続く)

25.9.12

大阪中央郵便局庁舎を巡る裁判について(1)


「大阪中央郵便局を守る会」のメンバーでもある専門家5名が6月に裁判を起こしてから、3ヶ月が経ちました。裁判の進行はゆっくりで、今のところ大きな展開はありません。しかしこの間、多くの方から今回の裁判はよくわからない、という指摘をいただきました。そこであらためて、今回の裁判について、現在の状況も含めて、何度かに分けてご報告していきたいと思います。要旨をできるだけ明快に書きたいと思いますので、詳細については曖昧な部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。

■国を相手にした裁判であること
今回の裁判では、建築に関する専門家が、国(文部科学省)に対して、旧大阪中央郵便局庁舎(以下、大阪中郵)を重要文化財に指定することを求めています。大阪中郵を所有する郵便局(株)や、その持株会社である日本郵政(株)を訴えたものではありません。従って、解体工事の中止を直接求めるものではありません。現在も、郵便局(株)は解体工事を進めることが可能です。この裁判は、国が大阪中郵を重要文化財に指定することによって、解体を止めようとしています。

■なぜ、直接解体を止める裁判をしないのか
私たちや原告の直接の目的は、大阪中郵の解体工事を止めることです。しかし保存活動をする一般市民や、専門家の立場では、解体中止を求める訴えを起こすことは、法律上非常に困難です。裁判では「原告適格」、つまりそもそも裁判を起こす資格があるのかどうかが大きな問題となります。資格がないと判断されれば、その訴えは棄却されてしまいます。一般市民や専門家が、建築物の解体を止める訴えを起こすことは、非常に難しいのが現状です。解体に対して、直接の利害関係にないというのが理由です。そこで弁護団と相談をし、専門家として、国を相手に義務付け訴訟を起こすことにしました。この方法が簡単だというわけでは決してありません。原告適格が大きな課題であることは変わりませんが、この方法に可能性があると判断したのです。

■裁判を起こすのが遅いのではないか
解体工事が始まってから裁判を起こしても遅いのではないか、という指摘をよく受けます。それは全くその通りです。裁判を起こすのであれば、もっと早く提訴すべきでした。しかし、守る会では、先に述べた原告適格の問題があるため、裁判に訴えることができないと思っていたのです。しかしいよいよ解体工事が始まり、本当に何もできないのかと弁護士に相談したところ、行政訴訟法の改正により、義務付け訴訟が可能になったことを知りました。原告適格の問題は依然ついて回りますが、解体工事の中止を直接求める裁判よりは、可能性が高いと判断して提訴に踏み切ったのです。

■争点について
繰り返しますが、守る会の直接の目的は大阪中郵の解体を止めることです。しかしこの裁判ではそれに加えて、このような歴史的建築物が次々と解体されていく背景にある、より根本的な問題に対しても問題提起をしたいと考えました。仮に大阪中郵の解体が止まったとしても、文化財保護を巡る根本的な問題が解決しない限り、また同じことが繰り返されるからです。それが、このような裁判の方法を取った、一番の理由といえるかもしれません。
○原告適格
裁判の争点は大きく2つです。まずひとつめは、先ほどから繰り返し述べている原告適格の問題。建築の専門家が、国に対して重要文化財指定を求める義務付け訴訟を起こす資格があるかどうか。法解釈を詳しく述べることはできませんが、従来は専門家には原告適格はないとする解釈が一般的で、現在もその考えは強く残っています。一方、原告適格を認めるべきだという主張も近年は多く見られます。新しい訴訟法のもとで、専門家の原告適格についてどう考えるか、判断は定まっていません。本裁判では、被告である国側は、この原告適格の問題を強く訴えて、裁判そのものを退けようとしています。重要文化財の指定を定めた文化財保護法は、このような専門家の利益を規定するものではない、というのが主な理由です。
これに対する反論は説明が長くなるので今回は省きますが、基本的な考え方として、重要文化財の価値を明らかに有する建築が解体されようとしているにも関わらず、国が何も動こうとしないとき、その価値を最もよく知る専門家ですら、何も訴えることができないというのは、日本の文化財を守るという観点からみて、明らかに不合理ではないでしょうか。
(続く)

13.9.12

3.9.12

今日の一言


東京中央郵便局と同じようなことになってはいけないと思います。
静岡県伊豆の国市 石橋 剛

(8月31日撮影)

1.9.12

今日の一言


変えなければならない事、残さなければならない物、もう一度頭の中で整理して考える時だと思う。
良いものをきちんと手入れして、大事に使い続ける事もエコなのではないだろうか?
そういう考え方を、未来の大人達にも伝えていきたい。
大阪から・・・・・

大阪府南河内郡 妹尾 光尉

(8月31日撮影)