「大阪中央郵便局を守る会」のメンバーでもある専門家5名が6月に裁判を起こしてから、3ヶ月が経ちました。裁判の進行はゆっくりで、今のところ大きな展開はありません。しかしこの間、多くの方から今回の裁判はよくわからない、という指摘をいただきました。そこであらためて、今回の裁判について、現在の状況も含めて、何度かに分けてご報告していきたいと思います。要旨をできるだけ明快に書きたいと思いますので、詳細については曖昧な部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。
■国を相手にした裁判であること
今回の裁判では、建築に関する専門家が、国(文部科学省)に対して、旧大阪中央郵便局庁舎(以下、大阪中郵)を重要文化財に指定することを求めています。大阪中郵を所有する郵便局(株)や、その持株会社である日本郵政(株)を訴えたものではありません。従って、解体工事の中止を直接求めるものではありません。現在も、郵便局(株)は解体工事を進めることが可能です。この裁判は、国が大阪中郵を重要文化財に指定することによって、解体を止めようとしています。
■なぜ、直接解体を止める裁判をしないのか
私たちや原告の直接の目的は、大阪中郵の解体工事を止めることです。しかし保存活動をする一般市民や、専門家の立場では、解体中止を求める訴えを起こすことは、法律上非常に困難です。裁判では「原告適格」、つまりそもそも裁判を起こす資格があるのかどうかが大きな問題となります。資格がないと判断されれば、その訴えは棄却されてしまいます。一般市民や専門家が、建築物の解体を止める訴えを起こすことは、非常に難しいのが現状です。解体に対して、直接の利害関係にないというのが理由です。そこで弁護団と相談をし、専門家として、国を相手に義務付け訴訟を起こすことにしました。この方法が簡単だというわけでは決してありません。原告適格が大きな課題であることは変わりませんが、この方法に可能性があると判断したのです。
■裁判を起こすのが遅いのではないか
解体工事が始まってから裁判を起こしても遅いのではないか、という指摘をよく受けます。それは全くその通りです。裁判を起こすのであれば、もっと早く提訴すべきでした。しかし、守る会では、先に述べた原告適格の問題があるため、裁判に訴えることができないと思っていたのです。しかしいよいよ解体工事が始まり、本当に何もできないのかと弁護士に相談したところ、行政訴訟法の改正により、義務付け訴訟が可能になったことを知りました。原告適格の問題は依然ついて回りますが、解体工事の中止を直接求める裁判よりは、可能性が高いと判断して提訴に踏み切ったのです。
■争点について
繰り返しますが、守る会の直接の目的は大阪中郵の解体を止めることです。しかしこの裁判ではそれに加えて、このような歴史的建築物が次々と解体されていく背景にある、より根本的な問題に対しても問題提起をしたいと考えました。仮に大阪中郵の解体が止まったとしても、文化財保護を巡る根本的な問題が解決しない限り、また同じことが繰り返されるからです。それが、このような裁判の方法を取った、一番の理由といえるかもしれません。
○原告適格
裁判の争点は大きく2つです。まずひとつめは、先ほどから繰り返し述べている原告適格の問題。建築の専門家が、国に対して重要文化財指定を求める義務付け訴訟を起こす資格があるかどうか。法解釈を詳しく述べることはできませんが、従来は専門家には原告適格はないとする解釈が一般的で、現在もその考えは強く残っています。一方、原告適格を認めるべきだという主張も近年は多く見られます。新しい訴訟法のもとで、専門家の原告適格についてどう考えるか、判断は定まっていません。本裁判では、被告である国側は、この原告適格の問題を強く訴えて、裁判そのものを退けようとしています。重要文化財の指定を定めた文化財保護法は、このような専門家の利益を規定するものではない、というのが主な理由です。
これに対する反論は説明が長くなるので今回は省きますが、基本的な考え方として、重要文化財の価値を明らかに有する建築が解体されようとしているにも関わらず、国が何も動こうとしないとき、その価値を最もよく知る専門家ですら、何も訴えることができないというのは、日本の文化財を守るという観点からみて、明らかに不合理ではないでしょうか。
(続く)
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